・・・ソヴェトの友の会では、去年の十月、革命記念祭に向って見学団派遣を計画し、農民代表として石川県の農民の山野芳松という小父さんが決定されるまでに運んだ。政府は、旅券をよこさなかった。農民にソヴェト同盟の真の姿を見せまいとするのである。 現に・・・ 宮本百合子 「今にわれらも」
・・・下士官広瀬は、榕子によって強い精神とされる精神の所有者であり、現実における辻政信その他の人々も、石川達三という作家によってうまれている彼女の流儀によれば、やはり強い精神をもって、日本のこんにちに暗く作用しつつある。「結婚の生態」「生きている・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・ 三人が抓みっこをしていたテーブルに、夕刊が一枚あった。私がどけようとすると、「あ一寸」とYがとめた。「その本を買うんですよ」 石川啄木の歌が広告に利用してあった。「働けど働けど我生活は楽にはならざり凝っと手を見る」・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
石川達三氏の「結婚の生態」という小説について、これまで文学作品として正面からとりあげた書評は見当らなかった。それにもかかわらず、この本は大変広汎に読まれている本の一つである。大変ひろく読まれながら、その読後の感想というもの・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・ 見て知らん振 銀座 雨もよい weekday の午後一時すぎ むこうから特長のある石川湧の鳥打帽 タバコをふかしつつ コバルト色のコート 傘の若い女と並んで歩いて来る、女私の前を通すぎるとき 傘を傾けて顔をかくして・・・ 宮本百合子 「心持について」
日常生活の形式等は、出来る丈単純にしているので、今私の心に在るものは、改良したいというより、寧ろ進展したい心持でございます。けれども故石川啄木の歌にひと晩に咲かせてみむと梅の鉢を 火に焙りしが咲かざりしかな・・・ 宮本百合子 「今年改良したき事」
・・・そして石川達三、石坂洋次郎、丹羽文雄、その他の作家や学者のある人は、全面講和でなければいけないと主張しています。 実際に世界の平和と日本の自立の為には、日本管理に関係のあるソヴェト同盟、中華人民共和国、その他オーストラリヤ、イギリスその・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・近習の甚五郎がお居間の次で聞いていると、石川与七郎数正が御前に出て、大阪への使を承っている。「誰か心の利いた若い者を連れてまいれ」と家康が言う。「さようなら佐橋でも」と石川が言う。 やや久しい間家康の声が聞こえない。甚五郎はどう・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・爺いさんは元大番石川阿波守総恒組美濃部伊織と云って、宮重久右衛門の実兄である。婆あさんは伊織の妻るんと云って、外桜田の黒田家の奥に仕えて表使格になっていた女中である。るんが褒美を貰った時、夫伊織は七十二歳、るん自身は七十一歳であった。・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・彼が幕府に仕えて後半世紀、承応三年に石川丈山に与えて異学を論じた書簡がある。耶蘇は表面姿を消しているが、しかし異学に姿を変じて活躍している、あたかも妖狐の化けた妲己のようである、というのである。その文章は実に陰惨なヒステリックな感じを与える・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫