・・・樹の根、巌の角、この巌山の切崖に、しかるべき室に見立てられる巌穴がありました。石工が入って、鑿で滑にして、狡鼠を防ぐには、何より、石の扉をしめて祭りました。海で拾い上げたのが巳の日だった処から、巳の日様。――しかし弁財天の御縁日だというので・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・ 男の児は小さい癖にどうかすると大人の――それも木挽きとか石工とかの恰好そっくりに見えることのある児で、今もなにか鼻唄でも歌いながらやっているように見える。そしていかにも得意気であった。 見ているとやはり勝子だけが一番よけい強くされ・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・今は此のシラクスの市で、石工をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いの・・・ 太宰治 「走れメロス」
出典:青空文庫