・・・ 海の水は、たとえば碧玉の色のようにあまりに重く緑を凝らしている。といって潮の満干を全く感じない上流の川の水は、言わばエメラルドの色のように、あまりに軽く、余りに薄っぺらに光りすぎる。ただ淡水と潮水とが交錯する平原の大河の水は、冷やかな・・・ 芥川竜之介 「大川の水」
・・・と思うとまた人を待つように、碧玉の簫などもかかっている。壁には四幅の金花箋を貼って、その上に詩が題してある。詩体はどうも蘇東坡の四時の詞に傚ったものらしい。書は確かに趙松雪を学んだと思う筆法である。その詩も一々覚えているが、今は披露する必要・・・ 芥川竜之介 「奇遇」
・・・ 裸体に、被いて、大旗の下を行く三人の姿は、神官の目に、実に、紅玉、碧玉、金剛石、真珠、珊瑚を星のごとく鏤めた羅綾のごとく見えたのである。 神官は高足駄で、よろよろとなって、鳥居を入ると、住居へ行かず、階を上って拝殿に入った。が、額・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・ 柳の間をもれる日の光が金色の線を水の中に射て、澄み渡った水底の小砂利が銀のように碧玉のように沈んでいる。 少年はかしこここの柳の株に陣取って釣っていたが、今来た少年の方を振り向いて一人の十二、三の少年が『檜山! これを見ろ!』・・・ 国木田独歩 「河霧」
・・・黄色な草穂はかがやく猫睛石、いちめんのうめばちそうの花びらはかすかな虹を含む乳色の蛋白石、とうやくの葉は碧玉、そのつぼみは紫水晶の美しいさきを持っていました。そしてそれらの中でいちばん立派なのは小さな野ばらの木でした。野ばらの枝は茶色の琥珀・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
出典:青空文庫