・・・ 絶え間なく戦争の危険がふりまかれ、人々の心に不安が巣くっていれば、戦争の恐怖がどういうものであるかを経験している国々の人民は、自分たちの日々の建設に、確固とした永続性を見出しにくい動揺した心理で暮すことになる。この生活も、いつどうなる・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・前衛としての知識人の負う艱苦、犠牲は運動の退潮期には猛烈であるから、一般的敗北の跡の検討ということは、冷静に、確乎性をもって歴史的な眼から行われ難い。船が難破しかかったとき、最後にその船を転覆させて自分たちの命もすてさせてしまうのは、舷の傾・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・その時分、私は内的に苦しんでいて、その訪問も、愚痴を聞いて欲しいというまでに折れてはいなかったが、自分の芸術の上に確乎としている人に接したい欲求があったと見えます。 少し極りわるく感じながら玄関で案内を乞うたら、芥川さんは何処かへ旅行中・・・ 宮本百合子 「田端の坂」
・・・プロレタリア文学の作品が多様化すればするほど、ますます確乎とした階級的基準にたって実にいきいきと、明快に、健康に、それぞれの作品の社会的意味を階級の歴史の発展との連関において積極的にせんめいする批評の必要が増して来ていることを痛感するのであ・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
・・・半ば眠り半ばは確乎と覚醒している厖大なアジアの一国、中国で、資本主義以前にありながら、しかも、目下の急速な世界情勢の動きにつれて、豊饒な民族資源が才能さえも含めていきなり最も民主的方法で開発される十分の可能をもっているという事実は、私たちに・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ かくのごとく新感覚派文学は、いかなる文学の圏内からも、もし彼らが文学を問題としている限り、共通の問題とせらるべき、一つの確乎とした正統文学形式であるということには、先ず何人も疑う必要はないであろう。そうして、此の新感覚派文学は、資本主・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・化にありとするならば、いかなるものと雖もそれらの人々のより高きを望む悟性に信頼し、より高遠な、より健康な生活への批判と創造とをそれらの人々に強いるべきが、新しき生活の創造へわれわれを展開さすべき一つの確乎とした批判的善であるからだ。して此の・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・……美しい手で確乎と椅子の腕を握り、じっとして思索に耽っている時のまじめな眠りを催すような静寂。体は横の方へ垂れ、頭は他方の手でささえて、眼は鈍い焔のように見える。「全身が考えている。」Whole Body thinks. そして思索のため・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・木下は確乎としたフマニストであって享楽人ではない。 和辻哲郎 「享楽人」
・・・かくして二十世紀の今日に確乎たる二様生活を行なわんがため、霊的本能主義は神により感得したる信念とその実行とをまっこうに振りかざし堂々として歩むものである。実行は霊的興奮により自然に表わるる肉体の活動である。吾人の渇仰する天才力ーライルは三階・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫