・・・ 勿論、今日と雖も文人の生活は猶お頗る困難であるが二十何年前には新聞社内に於ける文人の位置すら極めて軽いもので、紅葉の如き既に相当の名を成してから読売新聞社に入社したのであるが、猶お決して重く待遇されたのでは無かった。シカモ文人として生・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・何のことはないまるで子供の使いで、社内でも、おい子供、原稿用紙だ、給仕、鉛筆削れと、はっきり給仕扱いでまるで目の廻わるほどこき扱われた。一日で嫌気がさしてしまったが、近いうちに記者に昇格させてやると言われたのを当てにして、毎日口惜し涙を出し・・・ 織田作之助 「雨」
・・・ 同じ社内にある小さい石の鳥居が無難である。この石は何だろうと云っていたら、居合わせた土地のおじさんが「これは伊豆の六方石ですよ」と教えてくれた。なるほど玄武岩の天然の六方柱をつかったものである。天然の作ったものの強い一例かもしれない。・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・斎藤月岑の東都歳事記に挙ぐるものを見れば、谷中日暮里の養福寺、経王寺、大行寺、長久院、西光寺等には枝垂桜があり、根津の社内、谷中天王寺と瑞輪寺には名高い八重咲の桜があったと云う。 一昨年の春わたくしは森春濤の墓を掃いに日暮里の経王寺に赴・・・ 永井荷風 「上野」
・・・は事実上高級社員、確かな人物という範囲でだけ動いていて、社内一般の労務者の生活のよろこびの源とはなっていないわけである。ここに、営利会社というものの本質からの撞着の姿があるし、働く男女のおかれている社会の条件のむきつけな露出もあると思う。・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
出典:青空文庫