・・・いや、三十七歳の今日、こうしてつまらぬ雑誌社の社員になって、毎日毎日通っていって、つまらぬ雑誌の校正までして、平凡に文壇の地平線以下に沈没してしまおうとはみずからも思わなかったであろうし、人も思わなかった。けれどこうなったのには原因がある。・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・そしてそれらの社員は単に寄書家という格で外様大名のような待遇を受けるのでなくて、その社の仕事の全体に参与しかつ責任を負うものでなくてはならない。これらの記者たちはそれぞれ専門の方面で一般のために有益であるべきあらゆる重要事項の正確な報道紹介・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
長谷川君と余は互に名前を知るだけで、その他には何の接触もなかった。余が入社の当時すらも、長谷川君がすでにわが朝日の社員であるという事を知らなかったように記憶している。それを知り出したのは、どう云う機会であったか今は忘却して・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
東京美術学校文学会の開会式に一場の講演を依頼された余は、朝日新聞社員として、同紙に自説を発表すべしと云う条件で引き受けた上、面倒ながらその速記を会長に依頼した。会長は快よく承諾されて、四五日の後丁寧なる口上を添えて、速・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ けだし慶応義塾の社員は中津の旧藩士族に出る者多しといえども、従来少しもその藩政に嘴を入れず、旧藩地に何等の事変あるも恬として呉越の観をなしたる者なれば、往々誤て薄情の譏は受るも、藩の事務を妨げその何れの種族に党するなどと評せられたるこ・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・よって本月初旬より、内外の社員教員相ともに談じたることもあれば、自今都合次第にしたがい、教場また教則に少しく趣を変ずることもあるべし。学生諸氏は決してこれを怪しむなかれ。吾々は諸氏の自尊自重を助成する者なり。 本塾に入りて勤学数年、卒業・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・ 今日にいたるまで、余が衣食住に苦しまずして独立勝手次第の生活をなし、なおその上に私塾維持のためにも、社員とともに多少の金を費したるその出処を尋ぬれば、商売に儲けたるに非ず、月給に貰うたるに非ず、いわんや祖先の遺産においてをや。本来無一・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・そして、これは優等生の一人をつくる第一歩であり、優良社員をつくる一つの道であり、けちな面白みのない人間が一人ふやされゆく道どりでもある。 童心のきよらかさとはどういうものだろう。子供はわるいことをする。ひどいこと、すごいこと、そのど・・・ 宮本百合子 「子供の世界」
・・・ 各会社の利潤統制から、社員の足どめ策もあって内部の福利施設が行われるようになって来ているそうだが、谷野せつ子氏が熱心に求めている健康保護、災害防止の設備はどの位改善されつつあるのだろうか。関係会社十六社、社員二十五万人の日産では、「む・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・精励な会社員はあくまで社員で、人物がどうであろうと、重役には重役の息子がなるのが今日の経済機構である。 私は誠意をもって生きようとするすべての若い男女たちに心から一つのことを伝えたい。それは、好きになれる相手にであえたならば、いろいろの・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫