一 花火 一月二十六日の祝日の午後三時頃に、私はただあてもなく日本橋から京橋の方へあの新開のバラック通りを歩いていた。朝よく晴れていた空は、いつの間にかすっかり曇って、湿りを帯びた弱い南の風が吹いていた。・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
メーデーからはじまって、五月は国民一般の祝日の多い月だった。憲法記念祭、子供の日、母の日。どれをとっても、それぞれに新しい日本に生きるよろこびとはげましと慰藉とを意味しないものはなかった。そしてそれらすべての心がめざすとこ・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・先週は祝日があって、一日おきのところがすっかり飛び、土曜日は、『文学評論』の用でだめでした。どうぞあしからず御察し下さい。 差入れの本は、いたって無秩序にしか入れられないですみませんが、こちらもこの頃段々様子がわかって来ましたから次第に・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ メーデーは神聖な世界プロレタリアートの祝日だ。ホロ酔い機嫌でデモに参加する奴なんかあっては、階級の面よごした。だから一切酒は売らない。 ロシア人は、何しろ毎日ビショビショ降りつづく十月にあの偉大な革命を遂行したぐらいだから、だいた・・・ 宮本百合子 「勝利したプロレタリアのメーデー」
・・・へ行って油田を見せて貰えるつもりでいたところが、生憎その日はペルシアの日曜日――何かの宗教的祝日で、大通りの商店、事務所、すっかり表戸をおろしているのであった。 仕方がないから、自分たちは目抜の通りへ出て地図を買い、通行人に交って街をぶ・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・古い天皇制的な祝日が民主的な人民の祝日にかわろうとしている時、メーデーの歌が素朴な明るいメロディーをもって、人に知られない着実な生活をいとなんでいる主婦の一人である坂井照子さんによって作曲されたことも忘れられません。あの「町から村から工場か・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
出典:青空文庫