・・・私が盛に哲学書を猟ったのも此時で、基督教を覘き、仏典を調べ、神学までも手を出したのも、また此時だ。 全く厭世と極って了えば寧そ楽だろうが、其時は矛盾だったから苦しんだ。世の中が何となく面白くない。と云った所で、捨てる訳にはゆかん。何とな・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・もうよほど前からこの男は自己の思索にある節制を加えることを工夫している。神学者にでも言わせようものなら、「生産的静思」なんぞと云うだろう。そう云う態度に自身を置くことが出来るように、この男は修養しているのである。オオビュルナン先生はこんな風・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・「このお方は神学博士ヘルシウス・マットン博士でありましてカナダ大学の教授であります。この度はシカゴ畜産組合の顧問として本大祭に御出席を得只今より我々の主張の不備の点を御指摘下さる次第であります。一寸紹介申しあげます。」とこう云うのであり・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・政府御用の神学者シェリング等が筆頭となって、考え研究する能力ある人々を追いはらった。カールはこの状況のもとで大学教授を思いすてた。文筆人として「内部の光」を「焔として」表現する決心をした。『ドイツ年誌』への寄稿をはじめた。カールはこの頃、ボ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ヨーロッパの自然は、ギリシャ時代、ルネッサンスにあってはアポロだのジュピターだのという伝説の神々の仮名で重々しく擬人化され、美化され、中世紀は、たとえそれは栄光的であるとしても全く人為的な、神学の造化物として描かれた。あのように科学的天稟ゆ・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・民話をかきはじめ、当時のロシアのギリシャ教の神学への批判をかき、「我が懺悔」「我が宗教」「我等何をなすべきか」等を著し、好きな狩猟をも、楽しみのための殺戮に反対してやめてしまった。次から次へと生れて来る子供たちの世話をしたり、家政をとる傍ら・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・中国から帰って来た教育家たちが、教会で神学作興資金の演説をしたあとでは、きまって天錫を壇上に呼び上げて、会衆に紹介する。「『之が、我々の教育で出来た中国の青年です。ごらん下さい』と云わんばかりです。これは猿まわしみたいなものではないですか」・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・二つの扉のかなたには淫売婦が、三つ目の扉のかなたには、数字から出発して神の存在を証明しようとしている肺病の神学出の数学者が時々恐ろしい喚き声を挙げつつ暮している。ゴーリキイは非常な困難をもって「科学を克服」する仕事にとりかかった。全体むずか・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ずっと飛び離れて、神学科の寺院史や教義史がある。学期ごとにこんな風で、専門の学問に手を出した事のない子爵には、どんな物だか見当の附かぬ学科さえあるが、とにかく随分雑駁な学問のしようをしているらしいと云う事だけは判断が出来た。しかし子爵はそれ・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫