・・・奥の間から祭壇を持って来て床の中央へ三壇にすえ、神棚から御厨子を下ろし塵を清めて一番高い処へ安置し、御扉をあけて前へ神鏡を立てる。左右にはゆうを掛けた榊台一対。次の壇へ御洗米と塩とを純白な皿へ盛ったのが御焼物の鯛をはさんで正しく並べられる。・・・ 寺田寅彦 「祭」
・・・学生たちがそれをまた神棚から引きおろそうとして躍起になると、そのうち小野がだしぬけに“ハーイ”と、熊本弁独特のアクセントでひっぱりながらいう。「ハーイ、わしがおふくろは専売局の便所掃除でござります。どうせ身分がちごうけん、考えもちがいま・・・ 徳永直 「白い道」
・・・いろんなものの載っている神棚があり、そこに招き猫があった。「ヤア、猫がいらあ」と一太は叫んだ。そして、どこかませた口調で、「あれ、拵えもんですね」と云った。「生きてるんだよ」「嘘!」「本当さ、今に鳴くから待っとい・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・お化けはないもの、迷信はばかげたもの、と占いやまじないの話に子供の興味がひきつけられないようにしている母だのに、この白い鳩が座敷へ迷いこんで来て、偶然、神棚へとまって二三度羽ばたきし出て行ったということを、一つのいい前兆としてうけとった。道・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・「伯母やんに訊いてみよ、神棚へでも吊らっしゃろで。」 勘次は秋三を一寸睥んだが、また黙って霜解けの湿った路の上へ筵を敷いて上から踏んだ。「さアお前らぼんやりしてんと、どうするのや?」とお霜は云った。「和尚さん呼んで来うまいか・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫