・・・けれど、今日は、芸術――広く言えば文壇が、特に、私的生活と複雑な関係を有するだけに、単純に批判されないものがある。 小川未明 「正に芸術の試煉期」
・・・財の私的所有ならびに商業は倫理的に正しきものなりや? マルクスが問うてみせるまで、常人はそれほどにも自分らの禍福の根因であるこの問いを問うことができなかった。 天才の書によってわれわれは自分の力では開き得ない宇宙と人間性との奥深き扉をの・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ことにも、私的な生活に就ての弁明を、このような作品の上で行うことは、これは明らかに邪道のように思われる。芸術作品は、芸術作品として、別個に大事に持扱わなければ、いけないようにも思われる。私は、或いは、かの物語至上主義者になりつつあるのかも知・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・ アメリカやイギリスその他の国々で、看護婦の私的生活は、職務からすっかりきりはなされていて、例えば結婚して妊娠すれば、母となるという仕事は、看護婦という職業の面からきりはなされて、その人個人の処置にゆだねられます。モスクワの病院では、労・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
・・・どっさりの異性の知人というものが、あるいは同僚があるような公共的な生活が先ずあって、そういう土台からもっと私的なこまかい条件の加わって来る友情も生れる空気が求められるべきだと思う。異性の友情という、どことなし従来の婦人雑誌のトピック向きな空・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・ドミトリーは、彼女との私的関係で工場の仕事までを動かそうとするのであろう。「私は自分の仕事まであなたの犠牲には出来ない。」「じゃつまり何か……万事終りか?」「――問題をそういう風に持ってくるなら、私はあなたから去るしかないじゃあ・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・勤労階級の解放というような大事業をめざしている共産党員がそういうことについて気をくばることは私的な些事であるかのように言う人がある。しかし三・一五の顛落者が金と女にルーズであったことを忘れてはならない。それからのちあらわれたスパイも金と女に・・・ 宮本百合子 「共産党とモラル」
・・・ 王女の生活の公式の面と私的な面とは、右の手と左の手のようなもので、聖書の文句にあるとおり、右手のなすところを左手にしらしむるなかれという関係におかれているのだろうか。 こういう人間性の分裂と矛盾が、現代の権力あるものの避けがたい立・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・調の私的評論が流行したのも一九四九年の一現象であった。個人としてそれらの人々がどのように歴史の現実をうけとり、それを表現し、そのことによって、進んでゆく歴史と自分との関係を、おのずから客観の証明のもとに浮き上らせてゆくことは、もとより各人の・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・モーロアは、フランスの敗因をいくつかあげて、その一つの重要なものとして、ダラディエとレイノーの私的な憎悪や醜聞を面白可笑しく喋っている。空々しく、イギリスの政治家は潔白な生活をしているなどと云っているけれども、そして、フランスの防衛の準備が・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
出典:青空文庫