・・・子供の変わるのはおとなの移り気とは違う、子供は常に新しい――そう私に思わせるのもこの三郎だ。 やがて次郎は番町の先生の家へも暇乞いに寄ったと言って、改まった顔つきで帰って来た。餞別のしるしに贈られたという二枚の書をも私の前に取り出して見・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・快活であれば猶好い。移り気も一概には退けられない。不義する位のものは、何処かに人の心を引く可懐みもある。ああいうおせんのような女をよく面倒見て、気長に注意を怠らないようにしてやれば、年をとるに随って、存外好い主婦と成ったかも知れない。多情も・・・ 島崎藤村 「刺繍」
・・・精神のたわいない移り気、柔軟性、「蚊のような彼等の痛みを観察しつつ」二十一歳になったマクシム・ゴーリキイは自分を「馬蠅の雲の中へ脚をとられた一匹の馬のように」感じるのであった。 折からカザン大学に学生の騒動が始った。パン焼の窖につめこま・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・生の冒険のごとく見えたのは、遊蕩者の気ままな無責任な移り気に過ぎなかった。生の意義への焦燥と見えたのは、虚名と喝采とへの焦燥に過ぎなかった。勇ましい戦士と見えたのは、強剛な意志を欠く所に生ずるだだッ児らしいわがままのゆえに過ぎなかった。私は・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫