・・・こんな稼業をしてるんだから、いつまでも――一生その人に情を立ッて、一人でいることは出来ないけれども、平田さんを善さんと一しょにおしでは、お前さん済むまいよ。善さんがどんなに可愛いか知らないが、平田さんを忘れちゃ、あんまり薄情だね」「私し・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・ この三四年来は、さぞ漁村からも働き盛りの男たちが留守になっているのだろうが、あとの稼業や生計はどんな工合に営まれているだろうかと考えられる。農家では、女と子供の働きが非常に動員された。ある場所では機械や牛馬の力も加えて、男のいないあと・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
・・・あまりの貧しさ、貧しさ極った無一物から漂然とした従来の中国庶民の自由さとちがって、春桃は、稼業を見つけ出す賢さ、男二人をそれぞれに役立ててゆく才能、小さい店もひろげてゆく実際能力をもつ女であるからこその「誰のものでもない」こころもちを通して・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・そして、そういうお母さんがたが、やっぱり勇気をもって、稼業を励みながらたまには、そんな気のくつろいだ時ももたれるかと思えば、何とも云えない気がしますね。あなたがたは、家にいる間実によく働いてお母さんにもよくしてお上げになったから、それもどん・・・ 宮本百合子 「二人の弟たちへのたより」
出典:青空文庫