・・・中味は込入っていて眼がちらちらするだけだからせめて締括った総勘定だけ知りたいと云うなら、まだ穏当な点もあるが、どんな動物を見ても要するにこれは牛かい馬かい牛馬一点張りですべて四つ足を品隲されては大分無理ができる。門外漢というものはこの無理に・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・正しく五母鶏、二母じぼていの実を演ずるものにして、之を評して獣行と言うより他に穏当の語はなかる可し。鶏とぶたは真実鳥獣なるが故に、五母二母孰れか妻にして孰れか妾なるや其区別もなく、又その間に嫉妬心も見えず権利論も起らざるが如くなれども、万物・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・教育の文字はなはだ穏当ならず、よろしくこれを発育と称すべきなり。かくの如く学校の本旨はいわゆる教育にあらずして、能力の発育にありとのことをもってこれが標準となし、かえりみて世間に行わるる教育の有様を察するときは、よくこの標準に適して教育の本・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・彼のような穏当な学究さえも彼の理性が超国家主義と絶対主義に服従しないで立っているという理由で起訴され裁判された。河合栄治郎が学者としての良心の最低線を守ろうとした抵抗の精神は、人事院規則に対する南原の線を守る人たちの抵抗でもある。 日本・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 谷川氏の意見も穏当な態度で表現されてあるけれども、文化の上で従来の作家と大衆とが歩み寄るということは、ブルジョア作家の理解の中で見られている大衆の性質が元のままである限り、作家性が元のまま自覚されている限り、作家の側からの困難が予想さ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・恋愛や結婚についても、それに準じて、親の利害に反対しない範囲で、ひとに選んで貰った対手と、婚約時代には交際もするという程度のところが穏当とされたのであった。 藤村や晶子が盛にロマンティックな詩で愛の美しさ、愛し合う男女の結合の美しさ、価・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫