・・・ ひどく厭な気がしていた彼は金口を灰に突き刺すが早いか、叔母や姉の視線を逃れるように、早速長火鉢の前から立ち上った。そうして襖一つ向うの座敷へ、わざと気軽そうにはいって行った。 そこは突き当りの硝子障子の外に、狭い中庭を透かせていた・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・ と、紫玉の手には、ずぶずぶと響いて、腐れた瓜を突刺す気味合。 指環は緑紅の結晶したる玉のごとき虹である。眩しかったろう。坊主は開いた目も閉じて、ぼうとした顔色で、しっきりもなしに、だらだらと涎を垂らす。「ああ、手がだるい、まだ?」・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・匝れば匝られるものを、恐しさに度を失って、刺々の枝の中へ片足踏込で躁って藻掻いているところを、ヤッと一撃に銃を叩落して、やたら突に銃劔をグサと突刺すと、獣の吼るでもない唸るでもない変な声を出すのを聞捨にして駈出す。味方はワッワッと鬨を作って・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・ そう思うと、彼は今一段自分の狡猾さを増して、自分から明らかに堂々と以後一家で負う可き一切の煩雑さを、秋三に尽く背負わして了ったならば、その鮮かな謀叛の手腕が、いかに辛辣に秋三の胸を突き刺すであろうと思われた。 彼は初めて秋三に復讐し終・・・ 横光利一 「南北」
・・・直接音に関係のあるのは葉だろうと思うが、松の葉は緑の針のような形で、実際落葉樹の軟らかい葉には針のように突き刺すことができる。葉脈が縦に並んでいて、葉の裏には松の脂が出るらしい白い小さい点が細い白線のように見えている。実際強靭で、また虫に食・・・ 和辻哲郎 「松風の音」
出典:青空文庫