・・・ 僕の書斎兼寝室にはいると、書棚に多く立ち並んでいる金文字、銀文字の書冊が、一つ一つにその作者や主人公の姿になって現われて来て、入れ代り、立ち代り、僕を責めたりあざけったり、讃めそやしたりする。その数のうちには、トルストイのような自髯の・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ その後患者は入れ代り立ち代り出たり入ったりした。自分の病気は日を積むにしたがってしだいに快方に向った。しまいには上草履を穿いて広い廊下をあちこち散歩し始めた。その時ふとした事から、偶然ある附添の看護婦と口を利くようになった。暖かい日の・・・ 夏目漱石 「変な音」
・・・その外帝国文学という方面には、堂々たる東京帝国大学の威を借って、血気壮な若武者達が、その数幾千万ということを知らず、入り代り立ち代り、壇に登って伎を演じて居るようだ。これが即ち文壇だ。この文壇の人々と予とは、あるいは全く接触点を闕いでいる、・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫