・・・ 諸君、僕は幸徳君らと多少立場を異にする者である。僕は臆病で、血を流すのが嫌いである。幸徳君らに尽く真剣に大逆を行る意志があったか、なかったか、僕は知らぬ。彼らの一人大石誠之助君がいったというごとく、今度のことは嘘から出た真で、はずみに・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・道学者は倫理的の立場から始終奢侈を戒しめている。結構には違ないが自然の大勢に反した訓戒であるからいつでも駄目に終るという事は昔から今日まで人間がどのくらい贅沢になったか考えて見れば分る話である。かく積極消極両方面の競争が激しくなるのが開化の・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・国家に世界史的使命の自覚なく、単なる帝国主義の立場に立つかぎり、又逆にその半面に、階級闘争と云うものを免れない。十九世紀以来、世界は、帝国主義の時代たると共に、階級闘争の時代でもあった。共産主義と云うのは、全体主義的ではあるが、その原理は、・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・どんな困難な境遇に立っても客観的な立場を守って、的確な判断と作戦とを誤らなかった彼ではあった。彼の心の中にどっしりと腰を下して、彼に明確な針路を示したものは、社会主義の理論と、信念とであった。「ああ、行きゃしないよ。坊やと一緒に行く・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
・・・日本国中の立場・居酒屋に、めし、にしめと障子に記したるはあれども、メシ、ニシメと記したるを見ず。今このめしの字は俗なるゆえメシと改むべしなど国中に諭告するも、決して人力の及ぶべき所に非ず。 さればここに小学の生徒ありて、入学の後一、二カ・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・ビジテリアンの主張は全然誤謬である、今これを比較解剖学の立場からごく通俗的に説明しよう。人類は動物学上混食に適するようにできている。歯の形状から見てもわかる。草食獣にある臼歯もあれば肉食類の犬歯もある。混食をしているのが人類には一番自然・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・陽子は益々自分の中途半端な立場を感じ、謂わば、枝に引かかった凧のように憂鬱なのであった。 ――静けさ明るさに溶けるように、「う? う?」 軟かく鼻にかかった百代の声がした。十六の彼女は従兄の忠一の後に大きな元禄紬の片腕を廻し背中・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・主の気に入らぬからといって、立場がなくなるはずはない。こう思って一日一日と例のごとくに勤めていた。 そのうちに五月六日が来て、十八人のものが皆殉死した。熊本中ただその噂ばかりである。誰はなんと言って死んだ、誰の死にようが誰よりも見事であ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ それは少くとも唯物論もしくは唯物論的立場である。何ぜなら、唯心論及び唯心論的文学は、最早や完全に現れて了ったからである。 もしわれわれが、此の新しき唯物論的文学を、より新しき文学として認めるとすれば、われわれは当然、コンミ・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・私はあの人を少しでもよくしなければならない立場にありながら、あの人に対する自分の悪感のみを表わしたのです。私の悪感は彼をますます悪くしようとも、善くするはずはありません。すでにこれまでにも彼を圧迫する事によって彼の自暴自棄を手伝ったのは、私・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫