・・・ 子どもの養、教育の資のために母親が犠牲的に働くという場合は、主として父親のない寡婦の母親の場合であるが、立志伝などではこの場合が非常に多いようだ。ブース大将の母、後藤新平の母、佐野勝也の母などもそうである。また貧しい家庭では、たとい父・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・一人一人の婦人代議士についてきけば、それぞれに立志伝はあるであろう。小学校訓導をふり出しにして、今は高等女学校の校長となり、或は小学校を卒業したばかりで、どういういきさつにもせよ、今度立候補して当選する度胸がつくまでに、これまでの日本は、女・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・よく婦人雑誌の実話などのなかに、たとえば手内職から今日の富豪となる迄の努力生活の女主人公として女のひとの立志伝がのったりしますが、そういうひとの生涯でも、或る意味ではやはりえらいと云えるでしょう。普通の人間の忍べないと思うような辛苦をよく耐・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ 極く楽観的なものと意志の強い立志伝的なものをまぜてそれ等のものが二十ある中に涙の出るものは六七あればいいんです。 悲しみと云うものは世のすべてのものより勝って微妙なものですけれ共少女小説のいままでのものに表われて居るのは必して考え・・・ 宮本百合子 「現今の少女小説について」
・・・ただ貧農の娘の階級的立志伝ではない強烈な、不安な、燃え顫える光線が体にかかって来るような感じを与える。そして、その殆ど猛烈な波動は、その時代のアグネスの内部に常に対立していて激しく噛みあっていた女としての本来は健全な性的欲求と、女がこの社会・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
出典:青空文庫