・・・二匹の競馬の馬の間に、駱駝がのっそり立っているみたいですね。私は、どうしてこんなに、田舎くさいのだろう。これでも、たいへんいいつもりで腕組みしたのですがね。自惚れの強い男です。自分の鈍重な田舎っぺいを、明確に、思い知ったのは、つい最近の事な・・・ 太宰治 「小さいアルバム」
・・・ 四 その夜の真心 前説と同様な意味で、この映画はたとえ何十回競馬を見物に行っても味わうことの六かしいと思われる競馬というスポーツの最高度のスリルを味わわせる映画で、すべての物語の筋道などは、ただこのクライマックス・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・それをもって根岸の競馬に出かけるのである。競馬であてて喜び極まったところを刑事につかまったのが可哀相な浅岡である。刑事がここまで追跡する径路は甚だ不明であるが、つかまりさえすればそんなことはこの芝居にはどうでもよいので、これですっかり容疑者・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・ 不忍池の周囲は明治十六七年の頃に埋立てられて競馬場となった。一説に明治十八年とも云う。中根淑の香亭雅談を見るに「今歳ノ春都下ノ貴紳相議シテ湖ヲ環ツテ闘馬ノ場ヲ作ル。工ヲ発シ混沌ヲ鑿ル。而シテ旧時ノ風致全ク索ク矣。」と言っている。雅談の・・・ 永井荷風 「上野」
・・・○ベースボールの特色 競漕競馬競走のごときはその方法甚だ簡単にして勝敗は遅速の二に過ぎず。故に傍観者には興少し。球戯はその方法複雑にして変化多きをもって傍観者にも面白く感ぜらる。かつ所作の活溌にして生気あるはこの遊技の特色なり、観者をし・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・去年の九月古い競馬場のまわりから掘って来て植えておいたのだ。今ごろ支柱を取るのはまだ早いだろうとみんな思った。なぜならこれからちょうど小さな根がでるころなのに西風はまだまだ吹くから幹がてこになってそれを切るのだ。けれども菊池先生はみんな除ら・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・来年がらみんな競馬さも出はるのだづぢゃい。」一郎はそばへ行きながら言いました。 馬はみんないままでさびしくってしようなかったというように一郎たちのほうへ寄ってきました。そして鼻づらをずうっとのばして何かほしそうにするのです。「ははあ・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・ 土神の棲んでいる所は小さな競馬場ぐらいある、冷たい湿地で苔やからくさやみじかい蘆などが生えていましたが又所々にはあざみやせいの低いひどくねじれた楊などもありました。 水がじめじめしてその表面にはあちこち赤い鉄の渋・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・二人はステッキをふったり包みをかかえたりまた競馬などで酔って顔を赤くして叫んだりしていました。私たちはちゃんとおぼえていたのです。けれども向うではいつも、どうも見たことのある子供だが思い出せないというような顔をするのでした。・・・ 宮沢賢治 「二人の役人」
・・・殊にそのころ、モリーオ市では競馬場を植物園に拵え直すというので、その景色のいいまわりにアカシヤを植え込んだ広い地面が、切符売場や信号所の建物のついたまま、わたくしどもの役所の方へまわって来たものですから、わたくしはすぐ宿直という名前で月賦で・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
出典:青空文庫