・・・やゝ曇り初めし空に篁の色いよ/\深くして清く静かなる里のさまいとなつかしく、願わくば一度は此処にしばらくの仮りの庵を結んで篁の虫の声小田の蛙の音にうき世の塵に汚れたる腸すゝがんなど思ううち汽車はいつしか上り坂にかゝりて両側の山迫り来る。山田・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・家の縁側に立って南を見ると、正面に明月山、左につづく山々、右手には美しい篁の見えるどこかで円覚寺の領内になっていそうな山々、家のすぐ裏には、極く鎌倉的な岩山へ掘り抜いた「やぐら」が二つある。「やぐら」の入口の上に、今葛の葉が一房垂れている。・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・ 大雨があがる、 晴天 碧い空に白い雲、西風爽か 山の松の幹もパラリとしてすがしく篁の柔かい若青葉がしなやかに瑞々しく重く見える 多賀さんの下の高みで、家組が出来て、人が働いている 白シャツ姿。 廻り椽。浅い池 椽の・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
出典:青空文庫