・・・夢川利一という筆名だったので、兄や姉たちは、ひどい名前だといって閉口し、笑っていました。RIICHI UMEKAWA とロオマ字でもって印刷した名刺を作らせ、少し気取って私にも一枚くださいましたが、読んでみると、リイチ・ウメカワとなっている・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・という創作集なども出版せられ、太宰という私の筆名だけは世に高くなったが、私は少しも幸福にならなかった。私のこれまでの生涯を追想して、幽かにでも休養のゆとりを感じた一時期は、私が三十歳の時、いまの女房を井伏さんの媒酌でもらって、甲府市の郊外に・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・彼が二十二歳のとき酔い泥屋滅茶滅茶先生という筆名で出版した二三の洒落本は思いのほかに売れた。或る日、三郎は父の蔵書のなかに彼の洒落本中の傑作「人間万事嘘は誠」一巻がまじっているのを見て、何気なさそうに黄村に尋ねた。滅茶滅茶先生の本はよい本で・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・ジョージ・エリオットは、自分が婦人だとわかると、いろいろうるさい差別待遇がおこるのをいやがって、筆名は男のジョージ・エリオットとしてさえいる。ジェーン・オースティンにしても、イギリスの中流家庭で結婚ということについてどんなに打算や滑稽な大騒・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・何しろ文学を愛する奴なんぞは、くたばってしまえと親爺から怒鳴られた思い出によって、長谷川辰之助は二葉亭四迷という筆名をつけたというような時代であった。 二葉亭の苦悩は、文学というものがもし現在自分のぐるりに流行しているような低俗なもので・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・に関して昨年十二月以来プロレタリア文学、文化に堀英之助の筆名によって発表された諸論策が物語るところである。 昨年四月の白テロ後、文化運動の一部に日和見主義が発生した。文化運動の方針、批評、創作活動、サークル理論、その他日常闘争において、・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
出典:青空文庫