・・・ それで芸術家が神来的に得た感想を表わすために使用する色彩や筆触や和声や旋律や脚色や事件は言わば芸術家の論理解析のようなものであって、科学者の直感的に得た黙示を確立するための論理的解析はある意味において科学者の技巧とも見らるべきものであ・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ 複製の技術としての絵画はとうの昔に科学の圧迫を受けて滅亡してしまった。筆触用墨の技巧はいまだ一般の鑑賞家には有難がられているであろうが、本当の芸術としての生命は既に旦夕に迫っている。そのような事は職人か手品師の飯の種になるべきものでは・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・次に油絵の具は、その粘着力のゆえに、現実と取り組んで行くような、執拗な熱のある筆触の感じを出すことができる。日本絵の具はそれに反して、あくまでもサラサラと、清水が流れ走るような淡白さを筆触の特徴とするように見える。また色彩の上から言っても、・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・ 執拗な熱のある筆触、変化の多い濃淡、重厚な正面からの写実、――そういうものが日本画に望めるかどうか、それをかつて自分は問題にした。川端氏は黄熟せる麦畑の写実によってそれの可能を実証してくれた。昨年の『慈悲光礼讃』に比べれば、その観照の・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・ちょうど水墨画の溌剌とした筆触が描かれる形象の要求する線ではなくして、むしろ形象の自然性を否定するところに生じて来るごとく、能面の生動もまた自然的な生の表情を否定するところに生じてくるのである。 そこで我々は能面のこの作り方が、色彩と形・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
出典:青空文庫