・・・欧洲戦という意外の事件が突発したためという条、コンナに早く革命が開幕されて筋書通りに、トいうよりはむしろ筋書も何にもなくて無準備無計画で初めたのが勢いに引摺られてトントン拍子にバタバタ片附いてしまおうとは誰だって夢にだも想像しなかったのだか・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・ヒロオはその場で気が狂ったか、どうか、私はその後の筋書を忘れてしまった。 油地獄にも、ならずものの与兵衛とかいう若い男が、ふとしたはずみで女を、むごたらしく殺してしまって、その場に茫然立ちつくしていると、季節は、ちょうど五月、まちは端午・・・ 太宰治 「音に就いて」
・・・テーマは出来ているのだから、あとは津島の勤め先に応じて、筋書の肉附けを工夫して行けばよい。 津島修治は、東京都下の或る町の役場に勤めていた。戸籍係りである。年齢は、三十歳。いつも、にこにこしている。美男子ではないが血色もよく、謂わば陽性・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・まるで、それこそ、筋書どおりじゃないか。あまりに、ものほしげで、閉口した。「芸術的」陶酔をやめなければならぬ。始めから終りまで「優秀場面」の連続で、そうして全体が、ぐんなりしている。「重慶から来た男」のほうは、これとは、まるで反対であった。・・・ 太宰治 「芸術ぎらい」
・・・女房、俄かに上気し、その筋書を縷々と述べ、自らの説明に感激しむせび泣く。亭主、上衣を着て、ふむ、それは面白そうだ。そうして、その働きのある亭主は仕事に出掛け、夜は或るサロンに出席し、曰く、この頃の小説ではやはり、ヘミングウェイの「誰がために・・・ 太宰治 「小説の面白さ」
「忠直卿行状記」という小説を読んだのは、僕が十三か、四のときの事で、それっきり再読の機会を得なかったが、あの一篇の筋書だけは、二十年後のいまもなお、忘れずに記憶している。奇妙にかなしい物語であった。 剣術の上手な若い殿様・・・ 太宰治 「水仙」
・・・芹川さんは、おいでになる度毎に何か新刊の雑誌やら、小説集やらを持って来られて、いろいろと私に小説の筋書や、また作家たちの噂話を聞かせて下さるのですが、どうも余り熱中しているので、可笑しいと思って居りましたところが、或る日とうとう芹川さんは、・・・ 太宰治 「誰も知らぬ」
・・・これが、小説の筋書である。朝になると、けろりと忘れている百千の筋書のうちの一つである。それからそれと私は、筋書を、いや、模様を、考える。あらわれては消え、あらわれては消え、ああ早く、眠くなればいいな。眼をつぶるとさまざまの花が、プランクトン・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・先刻から、もっぱら小説の筋書ばかり考えているのである。その譬が、さとの小さい胸を、どんなに痛く刺したか、てんで気附かないでいるのである。勝手な子である。「さとは、どんな気がするだろうなあ。言ってごらん。小説の参考になるんだよ。実に、むずかし・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・これはたとえば数行のものであってもよいがともかくも内容のだいたいの筋書きができるのである。それをもう少し具体的な脚本すなわちシナリオに発展させる。しかしそれではまだすぐに撮影はできない。シナリオに従って精細な撮影台本が作られなければならない・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
出典:青空文庫