・・・防波工事の目的が、波浪の害を防いで嫁が島の風趣を保存せしめるためであるとすれば、かくのごとき無細工な石がきの築造は、その風趣を害する点において、まさしく当初の目的に矛盾するものである。「一幅淞波誰剪取 春潮痕似嫁時衣」とうたった詩人石せきた・・・ 芥川竜之介 「松江印象記」
・・・重要な官衙や公共設備のビルディングを地上百尺の代わりに地下百尺あるいは二百尺に築造し、地上は全部公園と安息所にしてしまう。これならば大地震があっても大丈夫であり、敵軍の空襲を受けても平気でいられるようにすることができるからである。この私の夢・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・家は軽快なる二階づくりで其の門墻も亦極めていかめしからざるところ、われわれの目には富商の隠宅か或は旗亭かとも思われた位で、今日の紳士が好んで築造する邸宅とは全く趣を異にしたものであった。 茅町の岸は本郷向ヶ岡の丘阜を背にし東に面して不忍・・・ 永井荷風 「上野」
・・・ 明治年間向島の地を愛してここに林泉を経営し邸宅を築造した者は尠くない。思出るがままにわたくしの知るものを挙れば、華族には榎本梁川がある。学者には依田学海、成島柳北がある。詩人には伊藤聴秋、瓜生梅村、関根癡堂がある。書家には西川春洞、篆・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ キェルケゴオルはその誠実な人格的生活、真生活築造の情熱、及びプラグマチズム風の認識論、特に主意的な人生観、著しい宗教的傾向、ただ宗教心の内にのみ真実になる個人主義、――などにおいて十分注意せられる価値がある。 私がキェルケゴオルを・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫