・・・ 十六か七の時、ただ一度――場所は築地だ、家は懐石、人も多いに、台所から出入りの牛乳屋の小僧が附ぶみをした事のあるのを、最も古くから、お誓を贔屓の年配者、あたまのきれいに兀げた粋人が知っている。梅水の主人夫婦も、座興のように話をする。ゆ・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・加うるに持って生れた通人病や粋人癖から求めて社会から遠ざかって、浮世を茶にしてシャレに送るのを高しとする風があった。当時の硯友社や根岸党の連中の態度は皆是であった。 尤も伝来の遺習が脱け切れなかった為めでもあるが、一つには職業としての文・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・私が、その一年生の冬季休暇に、東京へ遊びに来て、一夜、その粋人の服装でもって、おでんやの縄のれんを、ぱっとはじいた。こう姉さん、熱いところを一本おくれでないか。熱いところを、といかにも鼻持ちならぬ謂わば粋人の口調を、真似たつもりで澄ましてい・・・ 太宰治 「服装に就いて」
出典:青空文庫