・・・ 善によって女性の美を求め、女性の美によって善を豊かに、生彩あらしめよ。美しい娘を思うことによって、高貴なたましいになりたいと願うこころがますます刺激されるような恋愛をせよ。 音楽会に行って、美しい令嬢のピアノを弾いた知性と魅力のあ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・この種の伝統だけは、いまもなお、生彩を放って居る。ちっとも古くない。女の幽霊は、日本文学のサンボルである。植物的である。 日本文学の伝統は、美術、音楽のそれにくらべ、げんざい、最も微弱である。私たちの世代の文学に、どんな工合いの影響・・・ 太宰治 「古典竜頭蛇尾」
・・・はっきり客観の句だとすると、あまりにもあたりまえ過ぎて呆れるばかりだし、村人の呟きとすると、少し生彩も出て来るけれど、するとまた前句に附き過ぎる。このへん芭蕉も、凡兆にやられて、ちょっと厭気がさして来たのか、どうも気乗りがしないようだ。芭蕉・・・ 太宰治 「天狗」
・・・あまたの子供のなかにひとりくらいの馬鹿がいたほうが、かえって生彩があってよいと思っていた。それに逸平は三島の火消しの頭をつとめていたので、ゆくゆくは次郎兵衛にこの名誉職をゆずってやろうというたくらみもあり、次郎兵衛がこれからもますます馬のよ・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・私は風光の生彩をおびた東海の浜を思いださずにはいられなかった。すべてが頽廃の色を帯びていた。 私たちはまた電車で舞子の浜まで行ってみた。 ここの浜も美しかったが、降りてみるほどのことはなかった。「せっかく来たのやよって、淡路へ渡・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・の読者は、精彩にみち、実感にふれて来るこの雄大な一作をよんだのち、満足とともに何とはなし自分の体がもう一寸何かにぶつかる味を味ってみたかったような気分に置かれることはないだろうか。いかにも完成された作品であり、豊かな完璧な作品にちがいない。・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
共学 期待はずれた今度の内閣改造の中で僅かに生彩を保つのは安倍能成氏の文部大臣であるといわれる。朽木の屋台にたった一本、いくらかは精のある材木が加えられたところで、その大屋の傾くことを支え切れるもので・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・ 情感をゆたかに高めるというとき、それがどんなに多くの多様な光りを智慧からうけるものであるか、理智と感情とは対立したものでなくて、流水相光を交し、行動とからんで一体として生彩を放つものであるかということを、私たちは感情世界の新しい息づき・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・しかし、感覚的なものとして過ぎてゆく性質の幸福感が、何かそのひとの生活力の一部にまで摂取され、何かその人をささえる生活上の確乎とした力となり、精神に精彩を与えるものとなるには、ただ湧いたり消えたりする幸福感ばかりを追って、その条件を作ろうと・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・只人間生活の歓び確信というものの、最も鋭い、最もニュアンスに富んだ、最も出来合いでないものの感じ得る陰翳――それによって明暗が益生彩を放つところの、動く生命力の発露として、苦痛をも亦愛し得るだけ生活的です。私があなたにあげる手紙の中で、我々・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫