・・・後者への見とおしが、何かの意味でその中枢神経を貫いていなければ、結局はヒューマニズムそのものが生彩ある発動、深化、推進力を麻痺させられてしまうというような、質的な関係につながれているのではないだろうか。 困難な新進の道・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・パール・バックの筆は沈着、精密、精彩をもっているけれども、そして時に偉大に近いけれども、落華生が「春桃」一篇に漂わしている中国のうっすり黄色い、柔かい滑らかな靭さは、パール・バックの生れつきの皮膚とはちがった手ざわりをもっている。 封建・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・と云う夫婦の心持の縺れの描写のあたりは職場での男対女の感情のしきたりを描いた五章の一のあたりとともに、生彩を放っている。 働く女が働くものとして自身の技術を愛する熱意はそのものとして美しく、描いて美しいが、今日の現実にあっては、『中央公・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
・・・どこから、あの全作品を通じて特徴的な、リアルで精彩にとんだ描写とくどくどしく抽象的な説明との作者に自覚されていない混同、比喩などにはっきり現われている著しい古典趣味、宗教臭と近代科学との蕪雑なせり合い、現実的な観察が次第に架空的誇大的な類型・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・バルザックは、デュマばりのこの歴史冒険小説を生彩をもってかいている。 きょうのブルターニュのマーキの人々のひいじいさんや大伯父たちが、木菟党について知っており、又その子孫たちがこの物語をもっていることは、いいことだ。人民は、いかにおろか・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・の中でこれ等の生彩ある部分を書きながら、ゴーリキイが、では、何故、都会と農村との間にはこのような反撥が生じているのか、何故、農民は概括的単純に労働者の協力と云うことは出来ないかという問いを、たとい、自分自身に向ってでも提出していないかという・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ユニークな天才と化け得て一九二五年の文壇に生彩を放って居るから。 これについて当時の批評と云うものについて感あり。所謂一流の人々の批評にも、どんな危険性が含まれて居るかということについて。鏡花、よくも化け抜いた! いつぞや中央公論新・・・ 宮本百合子 「無題(五)」
・・・延子とその従妹との対照、お延が伯父から小切手を貰うところの情景などで、漱石は生彩をもってそのことを描いているのである。 結婚すれば女が人間としてわるくなる、という漱石の悲痛な洞察は、だが、漱石の生涯ではついにその本来の理由を見出されなか・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・私共は親しい源氏物語の光君は持っているが、彼とても、彼と交渉を持った数多い女性達の優婉さ、賢さ、風情、絵巻物風な滑稽等の生彩ある活躍にまぎれると、結局末摘花や浮舟その他の人物の立派な紹介者というだけの場合さえあるようだ。種々な作品を一般にい・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
出典:青空文庫