・・・ 今が今まで見たこともない製材工場へやって来て、巨大な、精緻な機械が、梁みたいに大きな木材を片はじからパンのように截って廻っているのを目撃したら、誰しも感歎する。 やがて職業意識をとり戻し、彼は、わきに案内役をしている工場新聞発行所・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・忍耐強い子だから根が切れてどうこうということはありませんが、人間の貴重で精緻な体をふっ飛ばす暴力はやり切れません。 うちでは三日夜寿江子が帰り、五日午後咲枝が腕に赤ん坊を抱いて、湯上りのような顔をして帰宅しました。これで一家の顔が揃い、・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・その果のない駈けめぐりの姿を精緻ならしめ、豊かならしめようとして、表現の逆説的な手法を己れの特色とした。小林秀雄の文芸批評が、当時から一般読者に迎えられるようになったのは、それが時代と文学の在りようを解明する力を持っていたからではなくて、そ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・私たちこの精緻な人間が、性器に還元された自我しか自覚する能力がないとしたら、それは病的です。性的交渉にたいして精神の燃焼を知覚しえない男・女のいきさつのなかに、この雄大な二十世紀の実質を要約してしまうことは理性にとって堪えがたい不具です。文・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・自由でない。精緻であるが、縫いつぶしの刺繍を見るようなものを感じる。この窮屈な文章が藤村の気組みの反映、或は堂々さとして現代の人々に尊敬されることに、現代文学の貧弱さ、同時に健康な若い文学的反抗心のよわさ、確信あり自信ある発展的・前進的活躍・・・ 宮本百合子 「「夜明け前」についての私信」
・・・丁度、美術愛好者が、古代ギリシャ建築の明美な柱列を見た時、心を打れ、何はともあれ、アカンサスの葉で飾られた精緻な柱頭と、単純で力強い柱台とに注意を向けた如く、学徒が、狂暴な程、雑多な原質の目覚める青年期、不思議に還元的色彩を帯びる更年期を特・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫