一太は納豆を売って歩いた。一太は朝電車に乗って池の端あたりまで行った。芸者達が起きる時分で、一太が大きな声で、「ナットナットー」と呼んで歩くと、「ちょいと、納豆やさん」とよび止められた。格子の中から、赤い襟・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・東京の朝の街に四時ごろから納豆をうり歩く十歳から十五歳までの少年たちがふえ、全国で労働している少年は一〇五万人もあります。少女はまた昔のように紡績工場に働き、売られて行く子もふえました。 この春中学校を卒業しても就職できなかった多勢の少・・・ 宮本百合子 「親子いっしょに」
・・・それでも老年にはいってから、たべものが変るにつれ、いつとはなし米沢でたべたもの、例えば粒のこまかい納豆だの、納豆もちだのを好んで食べるようになった。 私は興味をもって、その移りかわりを見ていた。 故郷をもつ人が、病気などしたり、暮し・・・ 宮本百合子 「故郷の話」
・・・そしてけさ、六時半。納豆、野菜など、なかなか美味です。きょうテーブルをこしらえて貰います。 十月十一日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 長野県上林温泉より〕 十月十一日、日曜日、晴。 十月三日づけのお手紙を昨日いただきました。私・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 嫌いなものといえば、何よりも先ず納豆です。北国の人は一体納豆を好むようですが、わたくしは、福島県の生れですし、父祖の生れは山形県ですし、それに父も母も納豆が嫌いではないのですが、わたくしはどうも駄目です。母なぞは「お前は国の納豆をたべ・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
・・・「でも納豆と塩からなんかがおきらいな位ですもの、困りゃあしませんよ。」と云って居るのもきいた事があった。 新らしいのが来てから十日ほど立って、「いつまで何してもきりがございませんから、 明日か明後日お暇をいただこうと思っ・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
出典:青空文庫