・・・ 厭だからな、聞くまいとして頭あ掉って、耳を紛らかしていたっけが、畜生、船に憑いて火を呼ぶだとよ。 波が平だで、なおと不可え。火の奴め、苦なしでふわふわとのしおった、その時は、おらが漕いでいる艪の方へさ、ぶくぶくと泳いで来たが、急に・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・ それから省作はろくろく繩もなわず、芋を食ったり猫をおい回したり、用もないに家のまわりを回って見たりして、わずかに心のもしゃくしゃを紛らかした。 四 夕飯が終えるとお祖母さんは風気だとかで寝てしもた。背戸山の竹に・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・の必ず鳴るをこらえるもおかしく同伴の男ははや十二分に参りて元からが不等辺三角形の眼をたるませどうだ山村の好男子美しいところを御覧に供しようかねと撃て放せと向けたる筒口俊雄はこのごろ喫み覚えた煙草の煙に紛らかしにっこりと受けたまま返辞なければ・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
出典:青空文庫