・・・たとえば第一の部分がある旋律によって表わされた一つの主題であるとすれば、第二の部分はこれと照応しまた対比さるべきものであり、これに次いで来る第三すなわち終局部では再び前の主題が繰り返される。またソナタ形式ならば、第一主題、第二主題の次にいわ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・無論それが終局ではない、人類のあらん限り新局面は開けてやまぬものである。しかしながら一刹那でも人類の歴史がこの詩的高調、このエクスタシーの刹那に達するを得ば、長い長い旅の辛苦も償われて余あるではないか。その時節は必ず来る、着々として来つつあ・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・一国の伝統にして戦争によって終局を告げたものも、仮名づかいの変化の如きを初めとして、その例を挙げたら二、三に止まらぬであろう。昭和廿二年二月 ○ 市川の町を歩いている時、わたくしは折々四、五十年前、電車も自・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・往古、我が王朝の次第に衰勢に傾きたるも、在朝の群臣、その内行を慎まずして私徳を軽んじ、内にこれを軽んじて外に公徳の大義を忘れ、その終局は一身の私権、戸外の公権をも併せて失い尽したるものならんのみ。されば今日の政治家が政事に熱心するも、単に自・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ところがあらゆるものの分割の終局たる分子の大きさは水素が、 〇、〇〇〇〇〇〇一六粍 砂糖の一種が 〇、〇〇〇〇〇〇五五粍 というように計算されていますから私共は分子の形や構造は勿論その・・・ 宮沢賢治 「手紙 三」
・・・ やがて若い階級的な妻である女は、自分が良人のところへかけ込んだことを自己批判し、終局に「物事が乱れるような結果になるかもしれない。けれどもそれが何だろう」あらゆるものを投げ出したものに貞操なんか何だ? そして石川という共働者との場合に・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・非常な不健康や欠乏は、一時も早く改善され、互に、終局の目標に進めることが大切である。 広くもない地球の上で、幾千万と云う人間が、飢え渇え、獣物にまで成り下っている有様は、万の王宮を以て償えないディスグレースではないだろうか。〔一九二二年・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・けれども私は、或る状態の裡に全く偶然な機会によって出生した一人間が、自己の道をつける為、どんな努力をするか、失敗するか、終局に於いて成し遂げ得たかと云う全過程に深い愛と牽引を感じます。貴女は自分の愚かさ、間抜けさを、そんなに可愛がっていらっ・・・ 宮本百合子 「大橋房子様へ」
・・・大戦当時にまで遡る。当時そこへ新たにドックをこしらえて儲けた某という人物があった。大戦終局とともに持ちきれなくなって、O・Tに売ることになり、O・Tから某の友人であった二人が専務として入った。その一人は技術家である。某はこの技術家と特に親交・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・私たち大衆が、つつましく名もない生涯を賭しながら、自身の卑俗さともたたかいながら、日夜生きつつあるその歴史の価値についての理解、その歴史に生起する幾多の華麗ならざる偉大な行動への愛、無力なものがいかに終局において無力ならざるものであるかとい・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
出典:青空文庫