・・・西洋に、あれは銀の匙を口に入れて生れて来た人というような表現のあるのもそこのところに触れているのだろうが、人間が男にしろ女にしろ、生えたところから自分では終生動き得ない植物ではなくて、自主の力をもった一箇の人間であるという事実は、その境遇と・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・ 仕事は事務所で、というのが終生の暮しかたでした。事務所では忙しがっているからというわけか、事務所の仕事に直接関係のある用事のかたが、夜や朝早く、日曜の朝など早く来られると、事務所の用事は事務所で伺うことにしていますからと、おことわり申・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・その文明にある酷薄な偽善を観破し、終生つきまとった苦悩に足をふみ入れている。 女というものをも、トルストイはツルゲーネフの考えていたように、純情、献身、堅忍と勇気とに恵まれたもの、その気まぐれ、薄情、多情さえ男にとって美しい激情的な存在・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・男の人たちが終生仲間は離せなくて、漫画の親爺教育のジグスのあわれおかしき仲間恋いの心持は、もう私たちの心にももちものとなっているかと思う。 家庭生活をやってゆく、仕事をしてゆく、その心持のバランスの一方が我も知らずに、仲間への心持のなか・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
・・・ この恐るべき三年間を始りとして、バルザックは終生近代資本主義経済の深奥のからくりにふれざるを得ない立場におかれるようになった。彼は金の融通の切迫した必要から銀行の組織に精通し、パリじゅうの高利貸と三百代言を知り、暫くではあるが公債のた・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・民衆の友、その一人であるゴーリキイが、レーニンと深い友情によって終生結ばれていたのは十分肯けることです。ロシアをさけてイタリーに住んでいたその時代に、「母」という長篇がかかれました。 一九二三年、レーニンのすすめでイタリーに住んだゴーリ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイについて」
・・・開発のことが終生頭についていた人であるから、金を蓄える方面は一向に駄目で、島根へ、役人として袴着一人をつれて行っていた暮しの間でも、米沢の家の近所のものには太政官札を行李につめて送ってよこすそうだと噂されつつ、内輪は大困窮。その頃の旧藩士と・・・ 宮本百合子 「明治のランプ」
・・・しかし、彼の風貌が直接私にあたえた深い信頼の感じ、さまざまな歴史の断面をつねに変らぬ努力と誠実さとをもって生きぬいて今日に至っている一箇の人間的チャムピオンの感銘は、終生私の心から消えることがないであろう。 昔から偉大な作家の例としてひ・・・ 宮本百合子 「私の会ったゴーリキイ」
出典:青空文庫