・・・かつこの反対の側から同じ結論に達する議論を組立てる手際が頗る鮮かであった。 負け嫌いの甚だしいは、人に自分の腹を看透かされたと思うと一端決心した事でも直ぐ撤去して少しも未練を残さなかった。かつて二葉亭の一身上の或る重要な問題について坪内・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・として知られた記録どおりの現象が、実際にあったものと仮定し、またこれが筑波地方の地鳴りと同一系統の地球物理学的現象であると仮定すると、それから多少興味のある地震学上のスペキュレーションを組み立てる事ができる。 ジャンの記録はすでに百年前・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・く忠実に記録されていて、その上にまたそれら破片の現品がたんねんに当時のままの姿で収集され、そのまま手つかずに保存されていたので、Y教授はそれを全部取り寄せてまずそのばらばらの骨片から機の骸骨をすっかり組み立てるという仕事にかかった、そうして・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・考えの式を組み立てるための記号をもたないと思われるからである。聾唖者には音響の言語はないが、これに代わるべき動作の言語がちゃんと備わっているのである。 数学では最初に若干の公理前提を置いて、あとは論理に従って前提の中に含まれているものを・・・ 寺田寅彦 「数学と語学」
・・・為政家が一国の政治を考究する時、社会経済学者がその学説を組み立てる時、教育者がその教案を作製する時、忘れずに少時このレコードの音に耳を傾けてもらいたい。あらゆる心と肉の労働者もその労働の余暇にこれらの「自然の音」に親しんでもらいたい。そうい・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・しかしそれだけではいまだ野蛮人や子供の絵と異なるところはないが、それと大いに異なるところはこれらの材料から組立てる一種の「思考の実験」である。科学者が既知の方則を材料として演繹的にこのような実験を行って一つの新しい原理などを構成すると同様に・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・私のひそかに考えているところでは、枕詞がよび起こす連想の世界があらかじめ一つの舞台装置を展開してやがてその前に演出さるべき主観の活躍に適当な環境を組み立てるという役目をするのではないかと思われる。換言すればある特殊な雰囲気をよび出すための呪・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・振り子のごとき週期的の運動に対する触感と自分の脈搏とを比較して振動の等時性というような事を考え時計を組み立てる事は可能であるかもしれぬ。しかし自分の手足の届くだけの狭い空間以外の世界に起こっている現象を自分の時計にたよって観測する事はよほど・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・大将「ふん、あとですっかり組み立てるならまあよかろう。」特務曹長「なるほど金無垢であります。すぐ組み立てます。」(一箇をちぎり曹長に渡す。以下これに倣う。各皮を剥大将「あっいかんいかん。皮を剥いてはいかんじゃ。」特務曹長「急・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・あらゆる部分品を組立てる。隣室には現像液が用意される。運転手に合図してダイナモが動き始める。マリアが姿を現わして後三十分でこれらの事が運ばれた。それから暗い部屋に外科医と一緒に閉じこもるキュリー夫人の前に、うめく人を乗せた担架が一つ一つと運・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
出典:青空文庫