・・・それは俳句には限らぬが、総ての技芸について見ても、始めの稚い時は同一の団体に属して居るものはほぼ同一の径路をたどって行く。例ば書方を学ぶにしても同じ先生の弟子は十人が十人全く同じような字を書いて居るが、だんだん年をとって経験を積み一個の見識・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・その電話は八王子管理部から国警本部へ入ったものであるが、この電話の「入手径路は捜査されていない」。この電話でみれば、何処よりも先に国警本部が事件の起きることを予知していたわけです。電車がぶつかってめちゃめちゃになった三鷹の交番に警官は一人も・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・などは、早苗姫が自殺してからの信玄の心理的経路が鮮明に描かれていなかったらしい為に、肝心の幕切れで、信玄と云う人格、早苗姫の死が、一向栄えないものになったように見える。 作者は、所々で、信玄を、英雄的概念から脱した人間らしい一性格として・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ 大抵の時には、悪い結果のみを多く得るものである、それだから、何かの話ついでに、分りもしない人が戯曲の主人公の性格や経路を引き出したりすると、思わぬあて違いをするものだ。 そう云う癖は一体に少し文学などをかじりかけた中年の男女が、自・・・ 宮本百合子 「雨滴」
・・・これは、ヴォルガ河の沿岸にあるシロコイエ村の貧農たちが、荒れきったブルスキーという土地を貰ってそこで村の富農の侮蔑や陰険なずるさと戦いながら集団農場を組織する経路を書いた長篇である。上巻だけで日本訳は六百頁余もある。英訳もある。 トポー・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・やはり同じ径路を繰り返す。 可哀そうになって、私は雛の剥製を籠から出してしまった。そしてもう見えない処に置き、また様子を窺った。 余程空腹であったと見え、戻った雌が再び下りて来る。実に注意し、気の毒なほど頭を動かし、そろそろ逃げる用・・・ 宮本百合子 「小鳥」
一、今日の地位に至れる径路 政略と云うようなものがあるかどうだか知らない。漱石君が今の地位は、彼の地位としては、低きに過ぎても高きに過ぎないことは明白である。然れば今の地位に漱石君がすわるには、何の政策を弄する・・・ 森鴎外 「夏目漱石論」
・・・しかし創作の心理的経路については、何らの詳しい観察もない。創作の心理は要するに一つの秘密である。 しかし我々は「生きている。」そうしてすべての謎とその解決とは「生きている」ことの内にひそんでいる。我々は生を凝視することによって恐らく知り・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
・・・一人の求道者の人間知と内的経路との告白を聞くのである。九 利己主義と正義、及びこの両者の争いは先生が最も力を入れて取り扱った問題であった。『猫』は先生の全創作中最も露骨に情熱を現わしたものである。それだけにまた濃厚な諧謔・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
・・・しかしながら過去数千年の人類の経路は一日としてこの問題から離るるを許さなかった。西行はために健脚となり信長は武骨な舞いを舞った。神農もソクラテスもカントもランスロットもエレーンも乃至はお染久松もこの問題に触れた。釈尊やイエスはこれを解いて、・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫