・・・然るに今日は既にビジテリアン同情派の堅き結束を見、その光輝ある八面体の結晶とも云うべきビジテリアン大祭を、この清澄なるニュウファウンドランド島、九月の気圏の底に於て析出した。殊にこの大祭に於て、多少の愉快なる刺戟を吾人が所有するということは・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・まことに生活の結晶であるから。―― 林町の生活について以前二十枚近く書いたことがありました。ではこの次の手紙はその分だけにいたしましょう。 私へのおまじないをありがとう。むしがれいはそろそろたべられるけれど、チーズどうかしら。私は咲・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ ○寒い日当りのよいところがよい ○夜のうちに凍らす ○甲府 ○兀突と結晶体のような山骨 ○山麓のスロープから盆地に向って沢山ある低い人家 ○山嶺から滝なだれに氷河のような雪溪がながれ下って居る。・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・あの壮麗らしく人工の結晶を積みあげた街をつぶして呉れよう。斯う三叉でくじって、先ず屋体に罅を入らせる。一ふきふいごで火をかける。――どうだ。美事な、自然らしい悪意には、我ながら感服の外はない。ミーダ 愉しめ! 愉しめ! 押しこめに会って・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・p.174ドイツ 小説の主人公はマイスターを典型として統一の方向をとり、力は集合され、人間はドイツ的理想にまで成長し、堪能となり混沌としていた要素は達成された静けさの中に結晶しつつ澄んで来て、修業時代からマイスターが出て来るのであ・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・する事、その目に見えている物を手に取る事を、どうしても周囲の事情が許しそうにないと云う認識は、ベルリンでそろそろ故郷へ帰る支度に手を著け始めた頃から、段々に、或る液体の中に浮んだ一点の塵を中心にして、結晶が出来て、それが大きくなるように、秀・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・その融けても行きそうな体は、裸に釣り合うように古風に結ばれた髪の黒さで、急にハッキリとした形に結晶する。湯のなかにはもう一人の女が、肩まで浸って、両手を膝の方へ伸ばして、湯のなかをでもながめ入っているらしい横顔を見せている。湯槽の向こうには・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・しかもそういう巨大な人力をあの城壁に結晶させた豊太閤は、現代に至るまで三百余年間、京都大阪の市民から「偉い奴」であるとして讃美され続けて来たのである。そうしてこの「偉い奴」を記念する酔舞の行列は、欧米風の高層建築の並んだ通りをもなお練って行・・・ 和辻哲郎 「城」
・・・この事がもしある芸術的天才の心裡に起こったならば、そこに何らか雄大な結晶物が生まれないではいないだろう。 考えてみると、古来の芸術的傑作には戦争に刺激せられてできたものが非常に多い。造形美術ではペルシア戦争後のアテナイの諸傑作などがその・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・我々は不断に流れ行く自己の生命を結晶せしめ、我々のもろい生命に永遠の根をおろさなくてはならぬ。しかし我々はさらに昇るべき衝動を感ずる。我々はさらに見、さらに意欲し、さらに戦わねばならぬ。我々の表現すべき内生は真理の底に、生命の底に、まっしぐ・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
出典:青空文庫