・・・ 私はいまペンを置いて「その火絶やすな」という歌を、この学校に一つしかない小さいオルガンで歌いたいと思います。敬具―― ところどころ私が勝手に省略したけれど、以上が、その国民学校訓導の手紙の内容である。うれしかった。こんどは私の・・・ 太宰治 「新郎」
・・・ つまり私は臆病であったおかげでこの臆病の根を絶やすことが出来たような気がする。私は臆病ではあったが未練ではなかったのだと思っている。だから自分の臆病を別に恥ずかしいとは思っていないのである。 この年取った、そして、少しばかり風変り・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・そのことのまじりけなさの故にこそ、私たちが血縁をもって結ばれているという事実も人間史の鏡に映って云うに云えない味いに満ち、愛着の新鮮な泉をも絶やすことがないのであると思われる。〔一九四四年十二月〕・・・ 宮本百合子 「白藤」
出典:青空文庫