・・・すなわち、ただ一つだけの因子が有効で他のすべての因子が無効な場合におけるその一つの因子の及ぼす効果だけを知れば、それらの個別的効果の総和が実際の共存的場合の効果を与えるか、というと、決してそうばかりでないということが科学上の実例にはいくらも・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・を「部分の総和は全体ではない」と訳しているのでも、当否は別としてやはり面白い。欠けた硝子片を寄せたものは破れない硝子板にはならないのである。 老子は虚無を説くから危険思想だとこわがる人があるそうである。しかし自分が電車で巡り合った老子の・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・つまりは遠い昔から近い過去までのあらゆる出来事にそれぞれの係数を乗じて積分した総和が眼前に現われているに過ぎないのではあるまいか。 こんな事を考えたりしながら、もう聞き古した母の昔話を今までとは別な新しい興味をもって聞く事もあった。・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・それで帝展の彫刻から受取るものの総和はむしろやはり一種の怪奇の感だけである。 ここまで書いた時に私はふとあの有名な西郷の銅像や広瀬中佐の群像を想い出した。それと同時に、いつかスイスで某将軍の銅像を真赤に塗りつぶして捕えられ罰金を課せられ・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・ 個々の乗客が全く偶然的に一つの停留所に到着したときに、ある特別な間隔に遭遇するという確率は、あらゆる種類の間隔時間とその回数との相乗積の総和に対するその特別な間隔の回数と時間との積の比で与えられる。そこでたとえば前の例について言えば二・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・かくのごとく定めた energy なるものがあらゆる変化に際して総和において変らぬというのがいわゆる勢力不滅則である。 仕事と云いエネルギーと云うのはどこまでも人間特に物理学者が便宜上採用した観念である。力という語や速度という語が世俗に・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・第一項に第二項を加え更に第三第四と無限の項を附け加えると、その総和は有限なものになる。例えば1+1/22+1/32+1/42+………………… ad inf.のごときものがある。数において無限なものが蓄積してもその結果・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・ 一つの学校の中で、優秀な細胞があり、自治会があり、そこに属す学生はすべて頭脳明晰だということだけが、その学校全体の学生の精神水準を示すとは云いきれないし、日本の青年の進歩の総和的な標準だとはいえません。東大でも、伊藤ハンニまがいの山師・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・が読者にあたえる印象の総和は、錯雑と神経衰弱的亢奮と個人的な激情の爆発とである。行文のあるところは居心持わるく作者の軽佻さえ感ぜしめる。これはどこから来るのであろうか。「子供の世界」という小市民的な一般観念で、階級性ぬきに子供の生活を「・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ついて見れば、容貌にしろ髪の色、声にしろ感情表現の身振りにしろ特長がなくはないのだが、男との相対において現われて来ると、性格的なものをはっきり生かそうというスター・システムの焦慮にもかかわらず、感情の総和ではどうも女一般に還元させられてしま・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
出典:青空文庫