・・・ 色のまっ黒な、眼の大きい、柔な口髭のあるミスラ君は、テエブルの上にある石油ランプの心を撚りながら、元気よく私に挨拶しました。「いや、あなたの魔術さえ拝見出来れば、雨くらいは何ともありません。」 私は椅子に腰かけてから、うす暗い・・・ 芥川竜之介 「魔術」
・・・客はそのまま目を転じて、下の谷間を打ち見やりしが、耳はなお曲に惹かるるごとく、髭を撚りて身動きもせず。玉は乱れ落ちてにわかに繁き琴の手は、再び流れて清く滑らかなる声は次いで起れり。客はまたもそなたを見上げぬ。 廊下を通う婢を呼び止めて、・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・それを十六本、右撚りなら右撚りに、最初は出来ないけれども少し慣れると訳なく出来ますことで、片撚りに撚る。そうして一つ拵える。その次に今度は本数を減らして、前に右撚りなら今度は左撚りに片撚りに撚ります。順に本数をへらして、右左をちがえて、一番・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・その先端の綿の繊維を少しばかり引き出してそれを糸車の紡錘の針の先端に巻きつけておいて、右手で車の取っ手を適当な速度で回すと、つむの針が急速度で回転して綿の繊維の束に撚りをかける。撚りをかけながら左の手を引き退けて行くと、見る見る指頭につまん・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・例えば『諸国咄』では義経やその従者の悪口棚卸しに人の臍を撚り、『一代女』には自堕落女のさまざまの暴露があり、『一代男』には美女のあら捜しがある。 このような批判の態度をもって西鶴が当時の武士道の世界を眺めたときに、この特殊な世界が如何に・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
出典:青空文庫