・・・尤もその頃は今の展覧会向きのような大画幅を滅多に描くものはなかったが、殊に椿岳は画を風流とする心に累せられて、寿命を縮めるような製作を嫌っていた。十日一水を画き五日一石を画くというような煩瑣な労作は椿岳は屑しとしなかったらしい。が、椿岳の画・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・十行を一行に縮める今までの工夫が、こんどは一行を十行に書く努力に変って来たのだ。僕は今までの十行を一行に書くという工夫からうまれたスタイルの前に、書かねばならぬことも捨てて来た。これからは、今まで捨てたものを拾って行こうと思うのだ。しかも、・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・ こういう災害を防ぐには、人間の寿命を十倍か百倍に延ばすか、ただしは地震津浪の週期を十分の一か百分の一に縮めるかすればよい。そうすれば災害はもはや災害でなく五風十雨の亜類となってしまうであろう。しかしそれが出来ない相談であるとすれば、残・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・そして、左右に浅い植込みを持ち、奥にその女の住う格子戸を眺める門内に立つと、覚えず身を縮めるような心持になった。 何とも云えない、ひどい様子である。 とっつきの左にある木戸は脱れてばたばたになって居る。雨戸の閉った玄関傍のつわ蕗や沈・・・ 宮本百合子 「又、家」
出典:青空文庫