・・・一度死んだ人間を無理に蘇生らしたり、マダ生きてるはずの人間がイツの間にかドコかへ消えてしまったり、一つ人間の性格が何遍も変るのはありがちで、そうしなければ纏まりが附かなくなるからだ。正直に平たく白状さしたなら自分の作った脚色を餅に搗いた経験・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・「それが奇妙で、学校の門を出るとすぐに題が心に浮んで、わずかの道の中ですっかり姿が纏まりました。」「何を……どんなものを。」「鵞鳥を。二羽の鵞鳥を。薄い平めな土坡の上に、雄の方は高く首を昂げてい、雌はその雄に向って寄って行こうと・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・その結果として、理論の上では、ああかこうかと纏まりのつくようなことも言い得る。また過去の私が経歴と言っても、十一二歳のころからすでに父母の手を離れて、専門教育に入るまでの間、すべてみずから世波と闘わざるを得ない境遇にいて、それから学窓の三四・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・審査員というものには通例話の纏まりやすい二、三人というところが選ばれ、その親密な合議で事を決するようになっているものらしい。それで多くの場合には各自の意見を参酌し折れ合って大体の価値を決め、そうして皆が十分の責任を負うというだけの自信を得た・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・あるいは結局いつまで論議しても纏まりの付かないような高次元の迷路をぐるぐる廻るようなことになるかもしれない。 こういう疑いは、問題の学問が、複雑極まる社会人間に関する場合に最も濃厚であるが、しかし、外見上人間ばなれのした単なる自然科学の・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
出典:青空文庫