・・・ 十七字のパーミュテーション、コンビネーションが有限であるから俳句の数に限りがあるというようなことを言う人もあるが、それはたぶん数学というものを習いそこねたかと思われるような人たちの唱える俗説である。少なくも人間の思想が進化し新しい観念・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・ 自分が水泳を習い覚えたのは神伝流の稽古場である。神伝流の稽古場は毎年本所御舟蔵の岸に近い浮洲の上に建てられる。浮洲には一面蘆が茂っていて汐の引いた時には雨の日なぞにも本所辺の貧い女たちが蜆を取りに出て来たものであるが今では石垣を築いた・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・ちょうど文法というものを中学の生徒などが習いますが、文法を習ったからといってそれがため会話が上手にはなれず、文法は不得意でも話は達者にもやれる通弁などいうものもあって、その方が実際役に立つと同じ事です。同じような例ですが歌を作る規則を知って・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・しきは敢て婬乱を恣にして配偶者を虐待侮辱するも世間に之を咎むる者なく、却て其虐待侮辱の下に伏従する者を見て賢婦貞女と称し、滔々たる流風、上下を靡かして、嫉妬は婦人の敗徳なりと教うれば、下流社会も之を聞習い、焼餅は女の恥など唱えて、敢て自から・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・またその人が、イーハトーヴの市で一か月の学校をやっているのを知って、たいへん行って習いたいと思ったりしました。 そして早くもその夏、ブドリは大きな手柄をたてました。それは去年と同じころ、またオリザに病気ができかかったのを、ブドリが木の灰・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ 小学校へ入って程なく音楽がすきだからというのでピアノを習いはじめた。うちにはベビイ・オルガン一台あるきりで其で教則本をあげた。そしたら先生がピアノを買った方がいいだろうというすすめで、一台中古を見つけてくれた。或る晩、九つの私は父につ・・・ 宮本百合子 「親子一体の教育法」
・・・安国寺さんを送り出してから、私は夕食をして馬借町の宣教師の所へフランス語を習いに往った。 そんな風であったから、私が小倉を立つ時、停車場に送ってくれた同僚やら知人やらは非常に多かったが、その中で一番別を惜んだものは安国寺さんであった。「・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・本当になんでも無い事のお蔭で、どんな結構な事でも出来たり出来なかったりするのが世の習いとかでございますのね。あなた、もうなんにもおっしゃりっこなしよ。後悔なすったってあなたのおためにもわたくしのためにもなりませんわ。まあ、あの時の埋合せにこ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
・・・これらの娘たちは、伯母の所へ茶や縫物や生花を習いに来ている町の娘たちで二三十人もいた。二階の大きな部屋に並んだ針箱が、どれも朱色の塗で、鳥のように擡げたそれらの頭に針がぶつぶつ刺さっているのが気味悪かった。 生花の日は花や実をつけた灌木・・・ 横光利一 「洋灯」
・・・ぬるという事はどういう事か、まだ判然分らなかったのですが、この時大事な大事な奥様の静かに眠っていらっしゃるのを、跡に見てすすり泣きしながら、徳蔵おじに手を引れて、外へ出た時、初めて世はういものという、習い始めをしました。 これからあと直・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫