・・・ 従って、既成の倫理学の概念や習俗の力は、いざという時、どれ程の力を持っているのかは疑います。これ等はただ、その人の内奥にある人格的な天質がそれ自身で見出すべき道に暗示を与え、自身の判断を待つ場合、思考の内容を豊富にするという点にのみ価・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・それを発展させ、開花させ人類のよろこびのために負うている一つの義務として、個人の才能を理解したループ祖父さんの雄勁な気魄は、その言葉でケーテを旧来の家庭婦人としての習俗の圧力から護ったばかりでなく、気力そのものとして孫娘につたえた。多難で煩・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・健全な結婚ということの実際は、十人の子供を持ったという結果からだけではなくて、その子供たちの父と母とが終生人間としての向上心を失わず、父は旧来の男の習俗におちず妻に対して誠実であるということからも見られて行かなければならないだろう。 そ・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・ ちょっと考えると、女性と子供との習俗的な近さから、婦人作家なら誰でも、何となし子供のための文学に一応興味をもってよかりそうな気持が一般にあるのではなかろうか。 この間或る席で、児童文学を専門にしている男のひとが、佐多稲子さんに、子・・・ 宮本百合子 「子供のためには」
・・・しかも、一般の習俗はスーザンの苦痛がわかる若い女の心は、例外だとするだろう。そこに日本の若い読者がこの小説から受ける複雑なものが考えられて来るのである。 マークの死後、放心の状態におかれたスーザンは、ある夜眠られぬままに、群像をこしらえ・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・ 日本の社会の習俗のなかで、女の戸主というものは実に複雑な立場を経験していると思う。友達のなかに三人ほど戸主である女性があって、そのひとたちの生活もいりくんだものとなっている。 女で戸主と云えば家つきの娘というわけになって、結婚の問・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・ 同じ真面目さと云っても、習俗の真面目さと文学の真面目さとは必ずしも常に一つでないことは誰しも知っているわけだが、作品の今日の所謂真面目さは、真の文学の真面目に立つより、A子の真面目だわというところ、B氏の少くとも真面目だよというところ・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・とを烈しく対立させた。習俗が課すしきたりの行為とその評価とに対して自主的な意志と目的の発動において人間が行為するだけ勇敢であるべきことを主張した。「先生」も「代助」もそのような自己の主張に立って生活を統一しようとしているために日露戦争後の世・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・例えば中国の習俗では正月を迎えることは年中行事中、最も賑やからしい様子ですが、それなら中国の村人、市民がこれまでの歴史のなかで常に安穏な月日を経て来ているかと云えば、事実は反対のものとして語られていると思います。日本の私たちは、あながちその・・・ 宮本百合子 「歳々是好年」
・・・現代の天女は話しがないどころか、自身が女の習俗で習慣づけられて来た「論理のどもり」を自ら知り、「素描」の新鮮な感性の価値を影響に研こうと欲し「女性は文学に死せず」や「皮膚をきたえん」には女性と芸術との厳しく隠微な関係さえとらえられ考えられう・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
出典:青空文庫