・・・これを治療するにはやはり余裕のある人を模倣する事によって習性を改める外はない」と論じている。これを読んでなるほどと感心した。 しかしまだどうもこの説には充分に腑に落ちないところがある。もし東京にあの風が吹かなかったら、もし東京の街の泥と・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・このような地形は漂泊的な民族的習性には適せず、むしろ民族を土着させる傾向をもつと思われる。そうして土着した住民は、その地形的特徴から生ずるあらゆる風土的特徴に適応しながら次第に分化しつつ各自の地方的特性を涵養して来たであろう。それと同時に各・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・これは人間の祖先の猿が手で樹枝からぶら下がる時にその足で樹幹を押えようとした習性の遺伝であろうと言った学者があるくらいであるから、猫の足踏みと文明人のダンスとの間の関係を考えてみるのも一つの空想としては許されるべきものであろう。・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・ 昆虫の研究者が蝶や蟻でも研究するように、この小略奪者たちの習性を研究する目的でいろいろの実験をしてみればきっとおもしろくまた有益だろうと思うが、自分にそれほどの暇も熱心もない。ただもう一二年たって、われわれ「東京者」に対する子供らの好・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・ という声が喉に湧いて来るような習性をもっていない男の中から、できることなら良人も発見して、お嫁入りではない結婚と呼ぶにふさわしい生涯の歩み出しを願っている。女性として社会に求めている積極の面で働こうと欲していると思う。それだのに結婚の対象・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・だろう、自分はまるで未知未見な生活に身を投じて、辛い辛い思いで自分を支えて行かなければならない――ここで、人として独立の自信を持ち得ない、持つ丈の実力を欠いている彼女は、何処かに遺っている過去の、殆ど習性にさえ成った日蔭の依頼主義の底力に押・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・けれども、配給とりも直さず万事あてがい扶持で、唯々諾々と生きる無気力の習性となるなら、それは堕落と云われなければならない。私たちは自分たちの世代において文化を堕落させたという責を、愛する後代から指摘されることは欲していないのである。〔一九四・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・やっぱり全СССРのラジオの決議で活きかえらすことになり、珍動物として厳重な檻の中で試育され、マスクをかけた一九七九年代の社会主義教授が男女学生に官僚主義という珍しい習性について説明してやるという筋だ。 五幕九場のこの喜劇は、ソヴェトが・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・それとも永年の環境からそういう習性のようなものが根深くあって、それが今日ではさながら本性のようになって見えるのではあるまいか。明日の婦人の創造力成長への課題は主にこの点への究明にかかっていると思われるのである。 日本の婦人の生活と文化の・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・それは一つの強き主観の所有者が古き審美と習性とを蹂躪し、より端的に世界観念へ飛躍せんとした現象の結果であり効果である。して此の勇敢なる結果としての効果は、より主観的に対象を個性化せんと努力した芸術的創造として、新しき芸術活動を開始する者にと・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫