・・・文学は生活感へいつも立ち戻るところがあるけれども、音楽や絵は一定の技術上の習練がいる為に、そこに足をとられて女の人などは殊に危っかしくなり勝ちですね。 この頃私は人々の向上心というものについて興味ある観察をしていますが、 富雄さんの・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ヴァイオリン、セロと云う様なごく長い習練のいるものはどうしてもサークルにはより少くとり入れられるわけです。 ピオニェールはピオニェールで又自分たちの楽隊を持っている。われわれも一日も早く自分たちの音楽によってメーデーのデモをやりたいもの・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の音楽サークルの話」
・・・ といつも云うだけで、どういう心の習練か恐るべき寛容さを持ちつづけて崩さなかった。 四番目の叔母は私の母とは一つ違いの妹だった。でっぷりよく肥えた顔にいちめん雀斑が出来ていて鼻の孔が大きく拡がり、揃ったことのない前褄からいつも膝頭が・・・ 横光利一 「洋灯」
・・・もしくはこの絵の具を写実に使う習練の不足によるのであろう。写実の歩を進めるとすれば、この点も考慮せられなくてはならぬ。 が、この画家には川端氏のごとき山気がない。素直にその感じを現わそうとする芸術家的ないい素質がある。先輩の手法を模倣し・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫