・・・ 果しない耕地にトラクターが進んでゆく。青葉の繁った木立ちのこっち側には集団牧場がみえる。楽し気な牛、馬、羊、年とった集団農場員が若いもの、孫のようなピオニェール等にかこまれて、働き、ラジオをきき、字をならっている。 鉄橋がある。遠・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・ある場所では機械や牛馬の力も加えて、男のいないあとの耕地を女が働いてやっている。 海へ女がのり出して働かないという昔からの習慣は、その活動が女の体力にとって全然無理だからなのだろうか。それとも穢れをきらうというようなことに関してのしきた・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
・・・彼女は日やけした小手をかざして、眩しい耕地の果、麦輸送の「エレバートル」の高塔が白く燦いている方を眺めた。キャンプの車輪の間の日かげへ寝ころがって、休み番の若い農業労働者が二、三人、ギターを鳴らして遊んでいる。 郵便局、農場新聞発行所。・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・面積一億デシャチン、価格百三十億金ルーブリの耕地が「十月」によって確実に農民の手にわたった。 ところが、戦後共産主義の毎日が始って見ると農村にはいろいろな困難が起って来た。 農民の間の反動的分子は密造酒を飲みながらゴネだした。「・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・私は、気抜けしたように黙りこんで、広々とした耕地を瞰渡す客間の廊下にいた。茶の間の方から、青竹を何本切らなければならぬ、榊を何本と、神官が指図をしている声がした。皆葬式の仕度だ。東京で一度葬式があった。この時、私は種々深い感じを受けた。二度・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・こっちからインテリゲンツィアとして真面目にこの毎日の生活、人間としての生活の問題と一歩一歩闘って行って出た広場には、あちらの小路から工場の方から次第次第に欲求を追って進んで来た人々、更にそっちの耕地から農民としての生きる道を押して来た人々が・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・斯うやっていても、耕地の土の匂い裸足で踏む雑草の感触がまざまざと皮膚に甦って来る。――子供の時分は愉しかった。私が裸足で百姓の後にくっついて畑から畑へと歩き廻っても、百姓は気楽に私に戯談を云い彼の鍬を振った。どんな農家の土間を覗きこんで「そ・・・ 宮本百合子 「素朴な庭」
・・・ 幾エーカーと云う耕地に、小山の如く積みあげられた小麦の穂を眺めて、彼等は思わず誇りに胸を叩いたでしょう、その心持は察せられます。今日、彼等の社会を風靡していると云われる物質主義、精力主義、並に実利主義は、未開の而も生産力の尽くるところを知・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 広い耕地を見晴す縁側の柱の下に坐り、自分は、幾度も、幾度も繰返して文面を見た。第一、なくなられたという深田という人が、誰であったか、どうしても思い出せない。女学校を出てから、殆ど五年ばかりになる。学校にいた時分と同じ姓なら、いくら、人・・・ 宮本百合子 「追想」
・・・帝政時代のロシア支配階級はその他多くの弱小民族を圧迫し生活権を奪うことによって豊沃な耕地を、森林を、鉱山と港とを自分の富として加えた。タタール民族ユダヤ民族は、自分らの言葉で書いたり読んだりすることさえ禁じられていた。小学校は強制的にロシア・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
出典:青空文庫