・・・平生聞ゆるところの都会的音響はほとんど耳に入らないで、うかとしていれば聞き取ることのできない、物の底深くに、力強い騒ぎを聞くような、人を不安に引き入れねばやまないような、深酷な騒ぎがそこら一帯の空気を振蕩して起った。 天神川も溢れ、竪川・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・そして、それは、また音楽について、教養あるがために、自然の声から、神秘を聞き取るという訳ではないのだ。 たゞ、どこにでもあるであろう、いゝ音色は、同じく、無条件に、人間の魂を捕えずに置かないというにしか過ぎない。 野蛮人は、殊に、音・・・ 小川未明 「名もなき草」
・・・すらすらと読むのを私は聞いていて、意味をはっきり聞き取ることが出来た。「もう好いから、君その意味を言って聞かせ給え」と、私は云った。 F君は殆ど術語のみから組み立ててある原文の意味を、苦もなく説き明かした。 私は再び驚いた。F君・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫