・・・ 耳の敏い事は驚く程で、手紙や号外のはいった音は直ぐ聞きつけて取って呉れとか、広告がはいってもソレ手紙と云う調子です。兎に角お友達から来る手紙を待ちに待った様子で有りました。こんな訳で、内証言は一つも言えませんから、私は医師の宅まで出か・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・ 私は殊に、芸術家の如何なる階層の人もこの自然美の観賞と云う事に敏い眼を持って居て欲しいと思う。 私共がすでに自然の産物である以上、その親をしたうに何の批評が入用ろう、 何の思考が入ろう。 或人は室中に何も置かない方がまとま・・・ 宮本百合子 「雨滴」
・・・人間より遙かに敏い瞳と、本能を持った彼等が、幾何、一面の苔の間に落ちたとは云え、自分等の好む、餌の馳走を心付かぬことはあるまい。 真先に屋根から降りる先達は、どの雀がつとめるだろう。 庭へついと、遠い遠い彼方の空の高みから、一羽の小・・・ 宮本百合子 「餌」
・・・ どれほど、白髪が、私の頭を渦巻こうとも額にしわが数多く寄ろうとも、只、希うのは、健に、敏い感情のみを保ちたいと云う事である。 今私が、妹の死を悲しんで、糸蝋の淡い灯影につつましく物を思いながら幼い魂を守って居る。 けれ共幾年か・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・の主人公の家出、破婚、流浪の本質を描いているのだけれども、フランス文学にごく近接しているようなその作風が、やはり文学の肉体として敏い感覚性や批判の心をくるんでいるのは独特なアメリカの肉の厚ぼったさ、大きさ、ひろさの響である。 このところ・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
出典:青空文庫