・・・朝、医者が来た。肋膜を侵されているということだった。 医者が帰ったあとで、道子は薬を貰いに行った。粉薬と水薬をくれたが、随分はやらぬ医者らしく、粉薬など粉がコチコチに乾いて、ベッタリと袋にへばりつき、何年も薬局の抽出の中に押しこんであっ・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
・・・今でも例の肋膜が、冬になると少しその気が出るんですよ」 惣治も酔でも廻ってくると、額に被ぶさる長い髪を掌で撫で上げては、無口な平常に似合わず老人じみた調子でこんなようなことを言った。「そうだろうね、商売というものもなかなかうまく行か・・・ 葛西善蔵 「贋物」
一 この頃の陰鬱な天候に弱らされていて手紙を書く気にもなれませんでした。以前京都にいた頃は毎年のようにこの季節に肋膜を悪くしたのですが、此方へ来てからはそんなことはなくなりました。一つは酒類を飲まなくなったせいかも知れません。然・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
出典:青空文庫