・・・ 子供を育てるには、寒く、ひもじく、とある人がかつて私に言ってみせたが、あれは忘れられない言葉として私の記憶に残っている。あまり多くを与え過ぎないように、そうかと言ってなるべく子供らが手足を延ばせるように。私も艱難に艱難の続いたような自・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・すると母は、弟をなだめて、その犬の子は兄さんのごはんで育てるのだからな、と妙な事をまじめな顔で言います。兄さんのごはんとは、どんな事だか、私が自分でたべるごはんをたべないでその犬の子に与えて養うべきだという意味だったのでしょうか、それとも、・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・ 四 紅雀 年を取った独身の兄と妹が孤児院の女の児を引取って育てる。その娘が大きくなって恋をする、といったような甘い通俗的な人情映画であるが、しかし映画的の取扱いがわりにさらさらとして見ていて気持のいい、何かしら美・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・ 子供を育てる親たちの参考になれば幸いである。 四 宇宙線 理化学が進めば世の中に不思議はなくなるであろうと言う人がある。しかし科学が進めばかえって今まで知られなかった新しい不思議なものも出て来るのである。現在物・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・人にすすめられた種だけをまいて、育たないはずのものを育てる努力にひと春を浪費しなくてもよさそうに思われる。それかといって一度育たなかった種は永久に育たぬときめることもない。前年に植えたもののいかんによって次の年に適当なものの種類はおのずから・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・男の子なれば之を寵愛して恣に育てるも苦しからずや。養家に行きて気随気儘に身を持崩し妻に疏まれ、又は由なき事に舅を恨み譏りて家内に風波を起し、終に離縁されても其身の恥辱とするに足らざるか。ソンナ不理窟はなかる可し。女子の身に恥ず可きことは男子・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・そしてある目的の作物を育てるのでありますがこの際一番自然なことは畑一杯草が生えて作物が負けてしまうことです。これは一番自然です。前論士がもし農場を経営なすった際には参観さして戴きたい。又人間には盗むというような考があります。これは極めて自然・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 人間を育てる根本の精神では、男の子も女の子も、同じであってよいと思います。 女の子は、愛嬌がないときらわれる、意志がつよいと敬遠される、と、受け身にばかり育てられた日本の若い女性が、今日、どのような姿で、この古い日本の躾の欠陥を社・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・過去の日本における結婚が女の生涯を縛りつけた重みの中には、生まされた子を育てるという悲しむべき受動性も勘定に入れられなければならないだろう。 葉子の鋭い感情の中でこの生々しい部分は何か安易にまとめられて描かれている。葉子自身が母の心とい・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ そういう孤児をソヴェト同盟では立派な働きてとして育てるために多くの費用をかけて国家で「子供の家」を組織したのがそもそも「子供の家」のはじまりです。 今では、モスクワみたいに大きい都会だと各区に一つ以上の「子供の家」をもっている。だ・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
出典:青空文庫