・・・――これは僕の友だちに聞いた能書きだがね、そいつがやり始めた缶詰だよ。」 田宮は唇を嘗めまわしては、彼等二人を見比べていた。「食えるかい、お前、膃肭獣なんぞが?」 お蓮は牧野にこう云われても、無理にちょいと口元へ、微笑を見せたば・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・三千日が間、能書の僧数百人を招請し、供養し、これを書写せしめしとなり。余もこの経を拝見せしに、その書体楷法正しく、行法また精妙にして―― と言うもの即これである。 ちょっと或案内者に申すべき事がある。君が提げて持った鞭だ。が、遠・・・ 泉鏡花 「七宝の柱」
・・・面胞だらけの小汚ない醜男で、口は重く気は利かず、文学志望だけに能書というほどではないが筆札だけは上手であったが、その外には才も働きもない朴念人であった。 沼南が帰朝してから間もなくだった。Yは私の仕事の手伝いをしに大抵毎日、朝から来ては・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
出典:青空文庫