・・・のニュースが見つからない場合に、めんどうな脚色と演出によって最もセンセーショナルな社会面記事に値するような活劇的事件を実際にもちあがらせそれがためにかわいそうな犠牲者を幾人も出したことさえ昔はあったといううわさを聞いたことがある。ジャーナリ・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ 戦争前の茶番がかった芝居には、それでも浅草という特種な雰囲気が漂っているものもたまには見られない事もなかったが、今ではそういう写実風の妙味は次第に失われて、脚色の波瀾と人物の活動とを主とする傾が早くも一つの類型をなしているようになった・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・ 普通の小説のような脚色がありながら、その方の筋はいっこうできていないで、かえって自然力の活動ばかり目醒しいので、余はこれを主客顛倒と評したのである。ところが短かい談話で、国民文学記者にコンラッドだけを詳しく話す余地がなかったので、つい・・・ 夏目漱石 「コンラッドの描きたる自然について」
・・・ 拵えものを苦にせらるるよりも、活きているとしか思えぬ人間や、自然としか思えぬ脚色を拵える方を苦心したら、どうだろう。拵らえた人間が活きているとしか思えなくって、拵らえた脚色が自然としか思えぬならば、拵えた作者は一種のクリーエーターであ・・・ 夏目漱石 「田山花袋君に答う」
・・・ただ小説家でない私は、脚色や趣向によって、読者を興がらせる術を知らない。私の為し得ることは、ただ自分の経験した事実だけを、報告の記事に書くだけである。 2 その頃私は、北越地方のKという温泉に滞留していた。九月も末に・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・小説に摸写せし現象も勿論偶然のものには相違なけれど、言葉の言廻し脚色の摸様によりて此偶然の形の中に明白に自然の意を写し出さんこと、是れ摸写小説の目的とする所なり。夫れ文章は活んことを要す。文章活ざれば意ありと雖も明白なり難く、脚色は意に適切・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・原作者の脚色であったそうだから、作者中本たか子氏も、脚色のときはその点に考慮されたところもあったろう。然しながら、舞台での友代の味はやはり何と云っても本間教子のもので、特に、第三幕第一場の、初めて友代が国婦の班長になって会議へ出た報告を、工・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・を芸術化するばかりではない。帝政時代のロシア兵営内の生活の愚劣野蛮な絶対主義を遺憾なく示している。「セメント」を上演した写実劇場は新しく「勇敢な兵士シュヴェイクの冒険」を脚色上演しはじめた。 これは、元オーストリア軍隊内の野蛮な腐敗・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
トルストイの「復活」という小説がある。小説として世界じゅうのひとによまれているばかりでなく、芝居に脚色されて、日本でもカチューシャとよばれる女主人公の運命は、ひとびとの心にきざまれている。「復活」のもっとも力づよく描き出さ・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
・・・ ヘルマン・コステルリッツという映画監督も、脚色者ヨアキムソンも、「恋人の日記」では、弁解の余地のない芸術家としての低さを示している。彼らは、「マリア・バシュキルツェフの日記」に目をとおしながら、一人の女としてのマリアは全然理解しなかっ・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
出典:青空文庫